デジタル神学の主要な研究領域

デジタル神学は「AI倫理」だけの領域ではありません。

①デジタル社会における宗教現象、
②教会・信仰実践、
③聖書・神学研究方法、
④人間・AI・身体、
⑤技術倫理、
⑥デジタル文化そのものの神学的再解釈
という6つの領域を中心にして、その周辺に教育・宣教・権威などが広がる「研究群」と捉えることができます。

このページでは、各領域が「何を研究対象としているか」を基準として、デジタル神学の主要な研究領域を分類してみました。


研究領域の6分類

現時点では次の6本柱に整理できると考えます。

主要領域中心的な問い代表的テーマ備考
1. Digital Religion / デジタル宗教デジタル環境で宗教はどう実践されるかnetworked religion、onlife、宗教コミュニティ、権威、儀礼、デジタル民族誌Dr. Heidi A. Campbell
Dr. Tim Hutchings
2. Digital Ecclesiology / デジタル教会論・実践神学教会や礼拝はデジタル環境でどう変わるかオンライン礼拝、聖餐、牧会、宣教、共同体、身体性Dr. Tim Hutchings
3. Digital Biblical & Theological Humanities / デジタル聖書学・神学DHデジタル技術は神学研究そのものをどう変えるかデジタル写本、OCR、コーパス、distant reading、NLP、ネットワーク分析Dr. Peter Phillips
C. Clivaz
4. Computational Theology / 計算神学神学的対象を計算可能な形でモデル化・分析できるかBible NLP、意味解析、構造検出、LLM、知識グラフ、計量分析Heidelberg Computational Theology
5. Digital Theological Anthropology / デジタル神学的人間論AI・身体・機械の時代に「人間」とは何かimago Dei、AI、サイボーグ、ポストヒューマン、身体性、人格、意識Dr. Karen O’Donnell
Dr. Scott Midson
6. Theology of Digitality & Technology Ethics / デジタル性の神学・技術倫理デジタル技術を神学はいかに評価・批判・再構成するかAI倫理、監視、アルゴリズム、プライバシー、テロス、human flourishingCODECによるDT3〜DT4

6領域の関係

1〜2:デジタル環境の中で宗教に何が起きているか

CampbellのDigital Religionが強く関係します。初期の「religion online / online religion」の区別から、Networked Religion、さらにオンライン/オフラインの融合したハイブリッドな宗教実践へと進んできた流れです。

PhillipsらもDigital Religionを、デジタル文化における宗教現象とその意味を探究する、比較的社会学的・記述的な領域としてDigital Theologyと区別しています。

「YouTube礼拝をしている教会が増えた」

を調査するならDigital Religion寄り。

「YouTube礼拝によって教会共同体とは何かという教会論そのものを再考する必要があるのではないか」

まで行くとDigital Theology、というように境界を引くことができそうです。


3〜4:神学をどう研究するか

「Defining Digital Theology(2019)」ではDT2として、ビッグデータ分析、複数テキストの遠隔読解(distant reading)、データ可視化などが神学研究に入ってくると説明されています。

さらにDHの発展として、デジタル写本、コーパス言語学、自然言語処理(Natural Language Processing)、機械学習、間テクスト性検出などが挙げられています。

上記を踏まえると、さらに二つに分類できそうです。

Digital Humanities in Theology(神学のなかのデジタルヒューマニティーズ)
=デジタル技術を神学研究に導入する大きな方法論的領域。

Computational Theology(計算神学)
=その中でも、計算モデル・アルゴリズム・統計・NLPなどによって神学的対象を分析・モデル化する領域。

Digital Theology ⊃ Digital Humanities applied to Theology ⊃ Computational Theology

と単純な包含関係にするより、

Digital Theology と Computational Theology は部分的に重なる

と考えたほうが正確だと思います。Computational Theologyは「方法」から定義されやすい一方、Digital Theologyは「デジタル文化を神学的に考える」研究まで含むからです。


5:神学的人間論(Theological Anthropology)

現状までの考察だと、AIと神学の話が最も集まりやすい領域と考えられます。

CODEC周辺でもKaren O’Donnellらが、imago Dei(神の像)、human enhancement、人工知能、身体性などを扱っています。また論文自体も、AI、トランスヒューマニズム、サイボーグ、人間の変容をDigital Theologyの重要テーマとして位置づけています。

「AIは人格か」「魂とは何か」「知性は人間固有か」「身体を持たない主体は共同体に参加できるか」などの論点がここで議論されます。

ただし、日本で「AIと神学」を論じると、ここだけで終わりやすいという問題があります。人間論は重要ですが、Digital Theologyは人間論だけではありません。


6:狭義には一番「デジタル神学らしい」領域

PhillipsらのDT3とDT4です。DT3では、デジタル文化を単なる研究対象ではなく、神学を行う文脈(context)そのものとして扱います。

神学 → デジタル文化を解釈する

だけではなく、

デジタル文化 → 神学そのものを問い直す

という双方向性があります。ここから、「教会論」「終末論」「救済論」「人間論」「罪論」「創造論」など古典的な神学領域が、デジタル環境によって再検討されます。


6本を横断する周辺領域

少なくとも4つ検討できます。

A. デジタル神学教育(Digital Theological Pedagogy)

オンライン神学校、遠隔教育、デジタル教材、オンラインでの霊的形成。Phillipsの分類ならDT1。

B. デジタル宣教・宗教コミュニケーション(Digital Mission / Religious Communication)

SNS、YouTube、ポッドキャスト、教会Web、デジタル伝道。

C. 宗教的権威・知識流通(Religious Authority & Knowledge)

牧師・神学校・教派の権威と、検索エンジン、SNS、インフルエンサー、AIとの競合。

D. VR・AR・メタバース・聖なる空間(Digital Sacred Space)

VR礼拝、AR聖書、デジタル巡礼、仮想空間における聖性・身体・臨在。

「Defining Digital Theology(2019)」にも、ローザンヌのデジタル写本、ルガーノのデジタル教育、トゥルク/ヨエンスーのVR・AR・MR、CODECの民族誌・ネットワーク分析・神学的人間論というように、すでにかなり異なる研究群が並存していることが示されています。